抜け毛に漢方は効く?体質別ケアと副作用のリスクを薬剤師が徹底解説

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抜け毛に漢方は効く?体質別ケアと副作用のリスクを薬剤師が徹底解説

「最近、シャンプーの時の抜け毛が増えた気がする……」 

「ボリュームがなくなって、分け目が目立ってきた」 

「育毛剤を使っているけれど、なかなか変化が感じられない」

髪の悩みは、鏡を見るたびに心を沈ませるものです。

そんなとき、「体の中から整える」という視点で漢方薬を検討される方も多いのではないでしょうか。

しかし、漢方薬は「魔法の薬」ではありません。

実は、日本皮膚科学会のガイドラインなど現代医学の視点では、抜け毛に対する漢方の評価は慎重なものとなっています。

今回は、薬剤師の立場から、漢方の伝統的な考え方(養生法)をご紹介しつつ、現代医学的なエビデンスや、服用する上で絶対に避けては通れない副作用のリスクについても詳しく解説します。

あなたの髪と体の健康を守るために、正しい知識を身につけていきましょう。


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漢方の伝統理論で考える「髪と体の関係」

まず漢方の世界で髪がどのように捉えられてきたのか、その伝統的な理論をご紹介します。

これらは現代科学で全てが証明されているわけではありませんが、体全体のバランスを測る一つの指標として今も大切にされています。

「髪は血(けつ)の余り」という考え方

漢方では、髪のことを「血余(けつよ)」と呼びます。

「髪は血の余り物」という意味です。

漢方における「血」とは、全身に栄養を運び、潤いを与えるエネルギーの一つです。

この血は、まず生命維持に不可欠な内臓へと優先的に運ばれます。

そして、全身を巡り、最後にたどり着くのが髪や爪です。

つまり、「美しい髪を保つには、全身に栄養が満ち溢れている必要がある」というのが漢方の基本的なスタンスです。

「腎(じん)の華(はな)は髪にある」

もう一つ重要なのが「」という概念です。

漢方における「腎」は、生殖や成長、老化を司る「生命エネルギーの貯蔵庫」のような役割を担っています。

この腎が元気であれば髪は豊かに育ち、腎が衰える(腎虚)と、白髪や抜け毛が増えると考えられています。

【重要】知っておきたい現代医学のエビデンスとガイドライン

ここで、非常に重要なお話をします。

漢方の伝統理論がある一方で、現代の皮膚科医学において漢方薬はどう評価されているのでしょうか。

日本皮膚科学会の見解

円形脱毛症などの治療指針となる「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017年版」において、漢方薬の推奨度は「C2(行わないほうがよい)」とされています。

「漢方薬の有用性は現段階では十分に実証されていない。今後の臨床試験で十分に検証されるまで、日常診療においては行わないほうがよい」

つまり、大規模な臨床試験において「漢方薬が確実に髪を増やす」という明確な証拠(エビデンス)は、現時点では不足しているのが実情です。

抜け毛に対する「直接的な治療薬」として漢方を選択することは、現在の医学的標準ではありません。

漢方が選択肢となる「限定的」な場面

ガイドラインで「行わないほうがよい」とされる一方で、現場で補助的に検討されるケースがあるのは、それが「抜け毛そのものの治療」ではなく、「併発している他の心身の不調(未病)を整える」ことを目的とする場合です。

冷え症、不眠、更年期障害など、全身の健康状態が悪化していることが間接的に髪の健康を損なっている可能性を考慮し、あくまで「全身の体調管理をサポートする補助的な選択肢」として位置づけられています。

体質別・よく用いられる漢方薬のタイプ

漢方では、その人の状態(証)に合わせて薬を選びます。

ここでは、全身の不調を整える目的で検討される処方をご紹介します。

【重要】
これらは「髪を増やす薬」ではなく、あくまで「随伴する体調不良(冷えや疲れなど)を改善するための薬」です。
抜け毛への直接的な効果は証明されていないことを前提に、体質改善の参考にしてください。

① 栄養不足・エネルギー枯渇タイプ:「血虚(けっきょ)」

検討される処方:
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)

特徴:
顔色が白い、立ちくらみ、爪が割れやすい、極度の疲労感。

役割:
全身の「気」と「血」を補い、衰えた体力を回復させることで健康の底上げを図ります。

② ストレス・巡り停滞タイプ:「気滞(きたい)」

検討される処方:
加味逍遥散(かみしょうようさん)

特徴:
気分が沈む、イライラ、喉のつかえ感、自律神経の乱れ。

役割:
滞った「気」を流し、精神を安定させます。女性の更年期に伴う諸症状によく使われます。

③ エイジング・パワー不足タイプ:「腎虚(じんきょ)」

検討される処方:
八味地黄丸(はちみじおうがん)

特徴:
足腰のだるさ、夜間頻尿、耳鳴り、加齢による衰え。

役割:
泌尿器や生殖器系を含む「腎」を補い、体を温めて老化に伴う機能低下をサポートします。

④ 血行不良・ドロドロ血タイプ:「瘀血(おけつ)」

検討される処方:
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

特徴:
シミ・クマが目立つ、肩こり、頭皮の硬さ。

役割:
血の巡りを改善し、全身の代謝を整えます。

決して忘れてはいけない漢方薬の「副作用」

「漢方は天然成分だから安心」という誤解がありますが、漢方薬も「医薬品」である以上、重篤な副作用が起こるリスクがあります 

以下の症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医師・薬剤師に相談してください。

① 間接性肺炎

特に「黄芩(おうごん)」という生薬を含む漢方薬で報告があります。

階段を上がると息切れがする、空咳(痰が出ない咳)、発熱などが急に現れた場合は要注意です。

② 肝機能障害

長期服用により肝臓に負担がかかることがあります。

体がだるい、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、尿が濃い茶色になるなどの症状に注意が必要です。

③ 偽アルドステロン症

「甘草(かんぞう)」という多くの漢方薬に含まれる生薬によって引き起こされます。

血圧の上昇、むくみ、手足のしびれや力が抜ける感じ(低カリウム血症)などが特徴です。

「ただの抜け毛相談だから」と安易に自己判断で飲み続けるのではなく、必ず医療専門家の指導のもとで服用することが大切です。

日常生活でできる「髪の養生」と科学的根拠

漢方の世界では「黒い食べ物が髪にいい」といった言い伝えがありますが、これにはどこまで根拠があるのでしょうか。

「黒い食べ物」の真実

伝統的には、黒ごま、黒豆、ひじきなどの黒い食材は「腎」を補うとされています。

しかし、残念ながら「特定の食材を食べることで髪が生える」という科学的根拠(臨床データ)はありません。

「海藻を食べると髪が増える」という説も、現代医学では否定されています。

ただし、これらの食材にはミネラルや抗酸化物質が含まれており、「バランスの良い食事の一部」として取り入れることは、全身の健康管理として素晴らしいことです。

本当に髪に必要な栄養素とは?

髪の毛の主成分は「ケラチン」というタンパク質です。

現代科学の視点では、以下の栄養素を不足させないことが重要です。

  • タンパク質: 髪の原材料。肉、魚、卵、大豆製品。
  • 亜鉛: タンパク質の合成を助ける。牡蠣、赤身の肉。
  • 鉄分: 頭皮への酸素供給を支える。レバー、ほうれん草。

睡眠と心身の休息

漢方では「血は寝ている間に作られる」と考えます。

これは現代医学における「成長ホルモンの分泌」とも通じる部分があります。

質の高い睡眠をとることは、自律神経を整え、頭皮の血流を正常に保つために最もコストパフォーマンスの良い養生です。

まとめ:自分に合ったケアを見つけるために

抜け毛の悩みに対し、漢方薬は「体質という土壌を整える」という視点を与えてくれます。

しかし、服用を検討する際は以下の3点を必ず念頭に置いてください。

1.エビデンスの優先
日本皮膚科学会のガイドラインでは「C2(行わないほうがよい)」とされています。
漢方は標準治療(AGA治療薬や外用薬など)に取って代わるものではありません。

2.臨床的位置づけ
漢方薬は「髪を増やす魔法の薬」ではなく、あくまで「抜け毛の背景にある体調不良を改善するための補助的な選択肢」です。

3.副作用と専門医の受診
重篤な副作用(肝機能障害など)のリスクを避け、原因を特定するためにも、まずは皮膚科専門医の診察を受けることが最優先です。

漢方薬は、検査数値に表れない「なんとなくの不調」を改善し、健やかな体作りを助けるツールの一つです。

ご自身の状態が漢方の適応になるのか、現在の標準治療とどう組み合わせるべきか迷われたときは、必ず医師や私たち薬剤師にご相談ください。

参照元・参考文献

【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、特定の薬剤の効能・効果を保証するものではありません。
服用に関しては、必ず医師または薬剤師にご相談ください。